カステラは、素材も製造方法も実にシンプルなお菓子です。ケーキやクッキーなどの洋菓子のような華やかさはありませんが、シンプルだからこそ、味のごまかしがききません。
そのためカステラ職人には、熟練の技と経験に裏打ちされた勘が必要とされます。4代にわたり、この技と勘を受け継いできた長崎屋本店のカステラは、以下のような工程によって、一つ一つ丁寧に作られます。
まずは材料を計量します。材料は、その日の状況(天候、気温、湿度、卵の水分量など)によって若干量を微調整します。この計量に使うのが「手動の秤」。デジタルに比べて狂いが生じにくいため、カステラの味の安定につながります。卵はもちろん手割によって白身と黄身を分けていきます。手で割るとその日の卵の状態を確かめることができるため、細かな分量調節を行うことができます。この材料の調合にも、職人の長年の経験が生きてきます。
まずは、白身を撹拌します。撹拌は、白身と黄身に分けて行う「別立法」によって行います。撹拌の状態によって生地の膨らみ方や粘度が違ってくるため、夏は少し短め、冬は少し硬めにといった具合に、温度などによって撹拌時間を調整します。
黄身を加えるタイミングも状態を確認しながら、職人の経験で判断しています。どこまで撹拌するのかといった判断も、いわゆる職人の感覚によってその日ごとに違ってきます。機械では真似のできない、職人の経験が生かされる場面です。
- 卵の撹拌方法には、共立法(ともだてほう)と別立法(べつだてほう)という2つの方法があります。
共立法とは、白身と黄身、また、その他の材料を一緒に撹拌する方法です。
別立法とは、卵を手割りで黄身と白身に分け、まず白身だけを撹拌し、そのあとに、黄身を加えてさらに撹拌するという手間をかけた方法です。
洋菓子のスポンジケーキは共立法によって撹拌しますが、当店のカステラは別立法によって撹拌するため、共立法では表現できない美しい気泡のふっくらとした生地となります。
砂糖と一緒に、ザラメ糖を少し加えることで、昔ながらの長崎カステラの特長である、シャリッとした口当たりを生み出します。材料を撹拌するときに、ザラメ糖を生地になじませていきますが、ザラメ糖をすべて生地に溶け込ませず、若干食感を残すために、季節や温度によって撹拌時間を変えており、ここに長年の勘と熟練を要する職人の技術が活きてきます。溶けたザラメ糖からはコクと上品な甘味、そして、ふっくら、しっとりした生地の中に時々感じられるシャリッとした食感が生まれます。
水あめは、まず手でこねて中に空気を入れます。透明な水あめは、職人の手によって、あっという間に白く変色していきます。どの程度こねて生地に加えるのか、すべて職人が長年の経験で判断します。水あめを加えることで、砂糖だけでは出ない品のいい甘みが加わるとともに、糖分の結晶化を防ぎ、水分を保持することでしっとり感が生まれます。
小麦粉は他の材料としっかり混ざり合う必要がありますが、あまり混ぜすぎず、さっくりと混ぜるのがポイントです。この生地の出来具合で、カステラの品質が大きく左右されますので、長年の経験と職人の勘が頼りの、非常に神経を使う作業です。
木枠の中に生地を流し込み、昭和54年製造の伝統の窯でじっくりと焼いていきます。 木枠を使用すると、生地にやさしく熱がかかり、じっくりと焼き上げることができます。窯は上下面から加熱しますので、焼き具合によって上下の温度を変えるなど、細かな調整が必要です。
加熱の途中、一旦生地を引き出し、生地を手早くかき混ぜて内部の気泡を無くす「泡切り」を行います。この作業によって焼き上がりのきめ細かさが違ってきますので、大変重要な工程です。どのタイミングで何回泡切りをするかは、状態を見ながら職人がその都度判断します。また、均等に焼き目をつけるために、窯の中で生地をまわしながら、慎重に焼き目をつけていきます。
焼き上がったカステラはすぐに店頭に出さず、一定時間寝かせます。パンと違い、焼き上がったばかりのカステラは、本来のしっとりした食感が無く、甘みも安定していません。この寝かせを行うことで生地がしっとりとした食感に変化し、絶妙の甘みとコクがカステラに馴染んでいきます。